第9回研究テーマトイレについて
【トイレ考古学!?】
大塚土居前遺跡 (福山市坪生町)
1983 (昭和58) 年に,中世の館跡である福山市坪生町の大塚土居前遺跡の建物跡から2つの桶を埋めた穴が見つかりました。恐らくトイレだと思われますが,当時はトイレに対する関心が低かったことから,これがトイレだと確証することはできませんでした。その後,中世の城跡である豊田郡河内町の薬師城跡でも似たような遺構が見つかり,現在考えてみると,これもトイレだった可能性があります。
吉川元春館跡 (山県郡豊平町)
そして,1994 (平成6) 年から始まった山県郡豊平町の吉川元春館跡 (きっかわもとはるやかたあと) の発掘調査で,桶を2つ埋めた穴が見つかり,これがトイレであることが判明されました。
なぜ,これがトイレかというと,桶の底に溜まった土を検査したところ,なんと!約6000個の寄生虫の卵が見つかったのです。それを詳しく分析すると,回虫・鞭虫(べんちゅう)・肝吸虫 (かんきゅうちゅう) ・横川吸虫 (よこがわきゅうちゅう) の卵であることがわかりました。
これらは,人間のお腹にいたのが,大便といっしょに排泄 (はいせつ) されたものです。回虫・鞭虫 (べんちゅう) は肥 (こえ) をまいて作った野菜から,肝吸虫 (かんきゅうちゅう) はコイなどの魚,横川吸虫 (よこがわきゅうちゅう) はアユから感染するそうです。どうやら当時の人々は,こうした食べ物によく熱を通さないか,生のままで食べていたようですね。
みつかった寄生虫の卵たち
回虫の卵
鞭虫の卵
肝吸虫の卵
横川吸虫の卵
むかしのトイレの必需品
出土した籌木 (吉川元春館跡)
また,トイレからは「籌木 (ちゅうぎ) 」と呼ばれる木製品も見つかりました。これは俗にクソベラと呼ばれ,現在のトイレットペーパーにあたるものです。当時,紙は大変貴重なものであり,紙でお尻をふくなんてとんでもないことでした。だから,箸やヘラ状の木製品が利用されていたのです。短いのは何回かに分けて使ったものと考えられます。
研究室からひとこと
近年,土壌分析の研究が進み,土中から寄生虫の卵を見つけ出す方法が,全国各地の遺跡で採用され,今では国内でトイレ発見の報告が相次いでいます。
センターの発掘調査でも,これからはトイレの跡と思われる遺構を発掘することが多くなると思いますが,遺跡だけでなく,まわりの土などにも注意を払って,科学分析も行い,十分調査していかなければと思っています。
このテーマについては,広島県教育委員会文化課中世遺跡調査研究室の成果をもとにつくりました。研究室スタッフのふんばりに敬意を表します。
発掘調査って,細心の注意と地道な研究がホント必要なのですね。