ひろしまの遺跡 第96号

考古学アラカルト33

ひろしまの線刻絵画土器(下)
 前回(第95号)では,広島県で絵画土器が8遺跡9例あり,それぞれの内容や題材の意味を紹介しました。今回は,題材が不明確な土森遺跡から出土した土器に描かれている絵画について考えてみたいと思います。

 土森遺跡は,三次市三良坂町の灰塚ダム建設地内にある弥生時代中期から古代が中心となる遺跡です。遺跡の前面にある上下川は,日本海に注ぐ江の川の支流である馬洗川と合流する地点まで大きく蛇行を繰り返しながら西に流れています。土森遺跡は,合流地点から直線距離で約5km上流の緩やかな南側斜面に立地しています。

 絵画土器が出土した遺構は斜面を長方形に削り出した平坦面で,この平坦面は,ほぼ同一時期の数条の溝によって区画され,区画内は土坑や柱穴で構成され掘立柱建物群のような様相を示しています。絵画土器はこの溝のひとつから出土しました。

 さて,問題の絵画の題材ですが,現地見学会や巡回展示でアンケートに答えてもらった結果のベスト5は,(89名・複数回答)@が船46,魚8,葉っぱ7,羽根6,魚を捕るしかけ3。Aは,へび13,うなぎ12,川(の流れ)11,みみず8,ひも7となっています。また,興味深いものとして,鳥の足を省略した(デフォルメ)ものというのもありました。土森遺跡の土器のように,ひとつの土器に複数の絵が描かれている場合,そこには何らかの物語が表現されている考えがあります。このことから,組み合わせを@を題材として確認された例のある船か魚とした場合に,船+川・うなぎ・鳥。魚+うなぎ・川が妥当なものとしてあげられます。@を船とする場合,船をこぐ櫂の表現が無く,どちらが船首かは不明ですが準構造船でカヌ−のような形態のものか,穏やかな水面に船が写っている表現と解釈が可能です。魚とする場合は「ひれ」の表現が無く,対になっている例が見当たりません。ただ,右側を頭としてみた場合,口にあたる部分がサケを表現しているように思われ,体の線は婚姻色を表し上下に重なっているのは産卵の準備をしている場面のようにみえます。「サケ」の産卵は稲の収穫と, また稚魚の川下りは田植の時期と重なるので,「シカ」と同様に豊作を願う対象となった可能性があります。

 つぎにAのへび・うなぎは,頭と尾の部分の線が繋がっていないのが気になります。鳥とするには省略化しすぎとも思われます。川とするとこれまでに自然(風景)を表した例がなく弱いところです。
 ここでは,絵画に描かれたストーリー性をふまえてAを蛇行する上下川をイメージしたもの。@は船か魚を表したものとして,船+川,魚+川の組み合わせで描かれたものとしておきたいと思います。
 ただ,絵画土器が水稲耕作に関連する「マツリ」と関わりがあったという考えもあることから,壺の中に来年のための種籾が保存され,その壺には産卵している「サケ」を表した状態と遡上してくる「川」が描かれていると考えるほうが物語としてはおもしろいのではないでしょうか。
(山田繁樹)