ひろしまの遺跡 第94号

遺物ピックアップ
〜平成15年度に刊行する報告書からA〜
道上第5号古墳出土の折り曲げ鉄器


鉄剣の出土状況
折り曲げられた鉄剣
 道上第5号古墳は深安郡神辺町道上に所在し,平成14(2002)年に発掘調査が行われました。径13〜17m・高さ2.0mの円墳で,墳頂部に大型の土坑1基と墳丘内に小型の土坑3基があり,土坑には木棺が埋められていました。墳頂部の大型土坑からは,上部から土師器,下層から鉄器(剣2点,・刀子・鎌各1点),床面などからガラス小玉8点が出土しました。築造時期は古墳時代前期と推定されます。ここで注目されるのは,鉄器がすべて,人為的に折り曲げられた状態で出土したことです。このような鉄器は「折り曲げ」鉄器とよばれ,弥生時代終末から古墳時代前期を中心に,西日本や関東でも見られることが,近年の発掘調査の進展で明らかになってきました。
 鉄器を折り曲げる行為の意味については諸説があり,まだこれからの研究課題です。代表的な説の一つは「死者が現世に復活することへの畏怖」を表現した説(佐々木隆彦「折り曲げた副葬鉄器」『研究論集』23 九州歴史資料館 1998年)で,もう一つは「鏡が副葬されないあるいは少数しか副葬されない墳墓に鏡の変わりとして副葬した」とする「神仙思想の発現」説(清家章「折り曲げ鉄器の副葬とその意義」『待兼山論叢』36 大阪大学大学院文学研究科 2002年)です。今回の報告書のなかでは,折り曲げた行為が「何らかの正常でない事実,たとえば事故や疫病などを封じ込める意味」があったのではないかと考えてみました。