ひろしまの遺跡 第90号

遺物ピックアップ
末近城跡出土の漆器皿漆塗膜

土抗墓(SKO1)出土の漆器皿漆塗膜
(左上:体部外面,左下:体部内面,右:高台内面)
 御調郡御調町字植野で実施した末近城跡の発掘調査で,鮮やかな朱色に塗られた漆器皿の断片が出土しました。漆器の木地となる木の部分は既に腐食して残っていませんでしたが,腐食に強い表面の漆膜だけが地中の適度な湿気によって保存されていました。
 末近城跡は江戸時代の記録に戦国時代(16世紀)の城跡として登場しますが,発掘調査の結果,戦国時代には城跡としての役目を終え,地域の人々の墓地として利用されたことが明らかになりました。漆器が出土した墓(SK01)は墓地の中心近くに位置しており,釘で固定した木棺を納めていたことがわかりました。墓坑の規模も墓地の中では最も大きいことから,この墓地を営んだ集団でも中心的な人物の墓であったと考えられます。
 X線や顕微鏡で分析した結果,比較的丁寧に下地を整えた上に黒漆を塗り,さらにその上に朱漆を塗り重ねていることが判明しました。このような漆器は「根来手」などと呼ばれ,当時としては高級品の部類に入る製品です。しかも,補修によって漆が塗り直されていることも確認でき,墓に葬られた人物が生前大切に使っていた漆器であった可能性が考えられるようになりました。
(鈴木康之)



(上)末近城跡全景(西から)
(左)漆器皿漆塗膜の出土した土抗墓(SK01)




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