ひろしまの遺跡 第84号

遺物紹介 今年度発掘調査の遺跡から

その1 甑形土器
復元された山陰型甑形土器

迫田山遺跡
 (庄原市川西町迫田山)から出土
調査期間
 2000年4月10日〜7月28日

 迫田山遺跡では,古墳時代初頭から古代にかけての竪穴住居跡,掘立柱建物跡,土坑,溝状遺構などが確認されました。山陰型甑形土器はその竪穴住居跡の1軒(ベッド状遺構をもつ大型竪穴住居跡で,桁材・垂木材など構築部位を推測できる炭化材を検出した焼失家屋です。)の床面から,広口部を下にした状態で見つかっています。広口部径40.5cm,狭口部径13.8cm,器高72.6cmです。これで,未報告のものを合わせると,広島県内の山陰型甑形土器の出土は27遺跡43例目になりましたが,本遺跡のようにほぼ完全な形に復元できたものは,非常にめずらしいと言えるでしょう。
 山陰型甑形土器の分布は,西は福岡県から東は石川県,南は愛媛県まで広がっていますが,その中心は鳥取・島根両県にみられます。狭口部を上位と捉えるか,下位と捉えるか,また用途についても,名称どおり「甑」としての用途を考える説,「仮器」と考える説,「煙突」状の使用を考える説などがあり,研究が進められています。

炭化材出土状況(桁材・垂木材)
 
大型竪穴住居跡(焼失住居)
(矢印部分から甑形土器が出土しました)
 
甑形土器出土状況  

その2 土師器の壺・甕
土師器の壺 土師器の甕

上安井古墳(安芸郡海田町東海田)から出土
調査期間 2000年4月10日〜6月23日

 上安井古墳は,古墳時代前期前半に築造されたと考えられる13.5m×15mの円墳です。墳丘頂部の竪穴式石室には,底部が「U」字状の木棺が据え置かれていたと考えられます。石室内からは,土師器(壺・甕),鉄器(鉄鏃・鉄剣・鉄斧・・鋤先・直刃鎌),玉類(管玉・ガラス小玉)が出土しました。
 副葬品のなかで注目されるのが,土師器の壺と甕です。広島県内では竪穴式石室内に土器を副葬した前例はなく,竪穴式石室に限らず前期古墳に土器を副葬する例は全国的に見てもごくわずかです。被葬者の頭部側の棺外から据え置かれた状態で出土した壺と甕は,いずれも器壁が薄く丁寧なつくりで,特に壺(直口壺)は化粧土を施した精製土器です。一般的に壺や甕などの貯蔵具は足元側に副葬され,1個体であることが多く,今回のような出土例はめずらしいものと言えるでしょう。
 
壺・甕出土状況
古墳から畑賀方面を望む
(矢印部分から壺・甕が出土しました)


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