ひろしまの遺跡 第82号



石塚第2号古墳出土須恵器
(広島県立歴史民俗資料館に展示中)
 上の写真は,山県郡千代田町の石塚第2号古墳から出土した珍しい形の須恵器です。高さ約54cmで,壺の肩に子壺を付け,さらに口縁部には蓋をして今にも飛び立とうとしている鳥形の須恵器をのせています。
 古墳時代に生産技術が伝えられた須恵器には,このように飲食物を貯蔵したり盛ったりするという器本来の機能を失った様々な形のものがあります。動物や器財の形を模倣した特殊須恵器,小型の壺や杯又は人物や動物などの小像を複数付け加えた台付壺や器台などの装飾付須恵器と呼ばれるものがその代表です。
 このような須恵器は,その大半が東海地方から西日本地域にかけての古墳から出土しており,実用品ではなく葬送儀礼に用いられた特製の器と考えられています。今回は,広島県内で出土している特殊須恵器と装飾付須恵器について簡単に紹介してみたいと思います。
 まず,特殊須恵器では,広島県は全国的にみて鳥形瓶が集中して出土している地域として知られています。鳥形のもつ意味については,鳥が死者の霊を運ぶ役割を担うという鳥船信仰に由来すると考えられており,朝鮮半島にその祖形があるようです。同時に,県内では環状瓶や亀形瓶など他に類例が非常に少ない珍しいものも出土しています。これらの特殊須恵器の県内での分布をみてみると,安芸国の東端にあたる沼田川上・中流域に集中しています。時期的には7世紀前半代に限られるようで,この頃の沼田川下流域には畿内系古墳文化の影響を強く受けた古墳や古代寺院が存在しており,沼田川流域が渡来系の畿内中枢勢力と密接に関連していたとも考えられています。
 次に,装飾付須恵器についてみてみましょう。県内で出土している装飾付須恵器は,台付壺の肩に小型の壺を複数のせたもの(子持),人物や動物をのせたもの(装飾),その両者をあわせもったもの(子持装飾)と,器台の上に複数の杯をのせたタイプのものが大半を占めています。これらの装飾付須恵器は時期的にはすべて6世紀後半から7世紀代にかけてのものとみられます。分布の中心は,窯跡出土品の存在や集中度からみて芦田川上流の世羅町付近にあったと考えられ,そこから江の川水系の三次盆地周辺部や沼田川流域にかけてもやや広がりをみせています。装飾付須恵器もまたその起源は朝鮮半島にあるようで,古墳祭祀専用品という点でもその性格は特殊須恵器と似通っていますが,安芸と備後の境界付近に対峙するように分布の中心があるのが興味深い点です。 (岩井重道)

参考文献
河瀬正利「広島県出土の鳥形須恵器」『芸備古墳文化論考』芸備友の会 1985年



広島県の特殊須恵器・装飾付須恵器出土分布図(番号は上の表と一致する)